☆五つ――日本人の平均寿命からすると人生の半分くらいを終え、宿泊の経験もだんだん積み重なってきた。
その経験から得た現時点での教訓の一つは、口コミ系評価が一般的・平均的に高く、また、お値段がそれなりに高価な宿であっても、
自分のニーズに合っていなければ満足できないということ。だから宿に満足したかったら、まずは自分のニーズに合ったタイプを選ぶ必要がある。
では、宿にはどんなタイプがあるか。誤解を恐れずに大別すれば、二つになる。
一つ目のタイプは、スタッフが誰であっても・どんな時であっても同じサービスが提供されるお宿(ホテル=システム系)。
二つ目のタイプは、その人(たち)から・その時々のおもてなしが提供されるタイプのお宿(ゲストハウス=生活世界系)。
もちろん両者に優劣はない。そもそも同じ物差しで比べること自体に意味がない。前置きが長くなった。

町家ゲストハウス三輪さんは、二つ目のタイプとして最高の満足度を得られたお宿であった(ということを言うために長い前置きが必要だった)。
初めてパートナーを連れて行く時の歓迎(?)ムードの実家に帰る感覚(もちろんもてなされるのはパートナーのみだから例として適切ではないかもしれない)、
あるいは仲良しの友人宅に宿泊に行く感覚(この時は自分ももてなしてもらえる)でこちらのお宿を選んだし、実際に宿泊してみて、初めて来たとは思えない居心地のよさがあったからだ。
それに、建物も、設備も、お部屋も、お風呂も、食事も本当によかったし、何よりホストご夫妻が素敵だった。チェックインは21時までである。
これを「早い」と感じる人は、恐らくホテルを選んだ方がいい。仕事の関係で21時ぎりぎりになった私は、開口一番「遅い時間に申し訳ありません」とお詫びする。

笑顔で迎えてくれて、少しばかり談笑して、お風呂を案内してもらう。ちなみに、平日水曜日ということもあって今日の宿泊客は私一人だという。入浴は22時30分まで。
22時には済ませてできる限り掃除をして出てくる。「お風呂いただきました、ヒノキの香りもよくて」とお声掛けする。
こういうやり取りが面倒な人、普段は面倒ではない人でも今回は遠慮という人は、やはり一つ目のタイプの宿を選んだ方がいい。
就寝前に、翌日は8時30分くらいにはお出掛けになると告げられる。でも、留守を預かる方が来てくれるから、チェックアウトの10時までゆっくりしていって大丈夫とのこと。
「私もお風呂いただきますね」「おやすみなさい(掃除しておいてよかった)」とやり取りをした後、部屋でしばらく仕事を(静かに)してから就寝。
お部屋は木の温もりがあって、いい意味でこじんまりとしていて、家具やお布団も含めてとても清潔。気分よく、ぐっすり寝られた。
翌朝は、6時30分くらいに散歩に出掛ける。仏教伝来の地の碑があるところまで行き、周辺を散策しながら戻ったので、朝食ぎりぎりの7時30分ちょっと前になってしまった。
運ばれてくる朝食、その合間に談笑。お盆に一式、一見して丁寧に調理し用意してくれたものだと分かる。「ちょっと早くから作ったから、牛肉を煮込み過ぎてしまって。味が濃いかも」
「あはは、そういうことありますよね。特に張り切っている時とか」。食べてみるとどれもとてもおいしい。水道水は使っていないのだそう。
お米(記憶違いでなければ、ひとめぼれ。ホストご夫妻・奥様のお母様がお作りなっているとか)も大変おいしく、おひつに入っていた分も含めて完食した。
「どれもおいしかったけど、牛肉の煮込みもとてもおいしかったです。味はほどよかったけど、今日のお品の中では一番、濃かったので、最後にお味噌汁と一緒に食べるとご飯がだんぜん進みました」。

ちなみにこのお味噌汁も絶品だった。野菜の火加減も含めて抜群。良かったところは、他にもたくさんある(新調されたという集いの間のテーブルと椅子、その理由など)。
ただ、こちらに宿泊して改めて思ったことは、ゲストハウスに宿泊するということが、少しの間そこにいる方々と生活を共にさせていただくことであるということ。
ゆえに、いろいろなことが起きる(ことがある)。不自由な事や時もあるかもしれない。でも、それは「生活」なのだから当然と言えば当然で、
普段と違うことが起きたら「むしろラッキー」くらいに思えるようにしておくと、よりいっそうこの体験を楽しめる。
そこにはあるのは、「サービス」の提供者からその受益者という一方向かつ消費の関係ではなく、言ってみれば、束の間の「人付き合い」であるということ。
もし、何かしてほしいことがあるなら、待っていないで、かつ、相談するつもりで申し出てみればいい。
そして、家族とは言わないまでも友人であれば許せることなら許容する、なんなら自分が少しばかりの助けになれればと思うくらいの構えでいられる人には、とても良い宿泊体験ができるのではないだろうか。

ちなみに、実は、こんな長い説明がいらないくらいとてもいいお宿であった。しかしながら、自分の記録と思い出として、
また、ホストご夫妻と関係スタッフ方々への感謝を込めて、書かせていただくことにした。
最後に。ゲストハウスを訪れる時には、「また来てね」と心から思ってもらえるようにしたい。そう思わせてくれる町家ゲストハウス三輪さんでもあった。(ホテルを訪れる時ももちろん同じだけど。)